少し前に、ロシアで鉄道用のベアリングが供給できなくなって廃棄される貨車が増えたとかという出所不明のニュースがありました。
もう初めて見たときはうっそやろーとか思いました。工場で長年働いていると、軸受けが不良を起こしたら全部ダメになることが簡単に予想できます。不良を起こした軸受けを交換品が来るまで延命するという、ノウハウもありますがさすがに1週間くらいしか持ちません。荷重のかかる場所だと、即、生産停止に陥ってしまいます。日本には日本精工やNTNといった世界的シェアを誇るベアリングメーカーがあるので通常のベアリングに関しては供給不足に陥ることはないのですが、非常に特殊なベアリングともなると、SKFというスウェーデンのメーカーの独壇場になります。
スウェーデンは鉄鋼産業に非常に強く、戦車の前面装甲の特殊鋼はスウェーデンしか作れません。ドイツも頑張っていますが、スウェーデンには負けます。この辺の超抗力鋼は十年単位の養生が必要なようで、日本では生産に成功していないです。
まあ、汎用ベアリングに関しては日本が世界をリードしています。大体日本のベアリング関係の関連会社の技術者たちは、実用上何の問題がないにも関わらず、自分たちの作っているベアリングボールが真球にはほど遠いと悩んでいるくらいですから。
半導体は産業のコメとも呼ばれていますが、ベアリングは近代産業を支える基本的な部品です。小型の電気製品には滑り軸受も多用されていますが、少し大きな機械になるとベアリングが無い機械の方が圧倒的に少ないです。どんなに簡単な機械でもどこかにベアリングが使われています。
使用されるベアリングの精度が高ければ、そのベアリングを使用する機械の精度も問われます。ベアリングだけ精度が高ければ、バランスが崩れて機械自体の寿命が逆に縮んでしまいます。この辺は卵が先か鶏が先かという話になりますが。
中国製の機械の信頼性の低さは全体的に各部品の信頼性が低いのだと思います。数年前に完全清掃をしなければならなくて、1950年製(御年70歳)の乾燥機(一応日本製)をばらしたことがありましたが、精度があまりにも低くて非常に苦労しました。一応形はちゃんとしているのですが、内部構造はとりあえず動けばいいやという感じでした。見えないところは超いい加減でした。固定のためのボルト位置とかいい加減で、今の機械では当たり前に対象位置での固定がされているのに、あるべきところに固定ボルトがないとか、部品同士の隙間があってアスファルトみたいなものでふさいであるとか(耐熱シリコーンでシーラントしておきました。)、現代の精度の高い新品ビスがフツーに嵌らないとか(固定するために部品に開けてある穴に通らないレベルでした。そこだけ径の違うビスが使われていました。)、なんかとりあえず完成させるために無理やり曲げているところかあったりして、固定ボルトの位置を見てヤバいと思ったので、外したボルトやビスの位置をすべて撮影記録しておいて助かりました。でなければ再組み立ては不可能だったと思います。
ロシアは民生品に関してはそんなレベルなのかもしれません。戦車の砲塔のベアリングの作成については非常に高い技術が要求されます。直径が大きくて、耐久性が求められるので、加工精度は非常に高レベルを要求されます。そういうのが作れて、貨車のベアリングが作れないのとか、ちょっと考えにくいのですが、軍事技術の拡散がちゃんとできていないのだと思われます。アメリカの軍産複合体では高レベルの機密技術が 使われていますが、民生用への拡散もちゃんと行われています。アメリカの民間用航空産業が世界を席巻しているのはその典型だと思います。
日本もまあまあやっている方じゃないかな。日本の場合軍事技術より民生技術の方が進んでいる分野もありますけど。数十年前の話になりますが、キャビテーションの起きにくい潜水艦用のスクリューの開発に東芝が参加したことがあります。んで、東芝は音の出ない扇風機を開発しました。今の扇風機は微風だと全く音がしません。これはスクリューの開発技術をそのまんま扇風機の羽の開発に使ったからです。
ロシアの場合はロシアの軍需産業を支えているウクライナに侵攻したこと自体が間違っていると思います。軍需産業以外のロシアの経済基盤はかなり弱いと思います。SWIFTから排除されたことで、もうずたずたもいいところだと思います。クレムリンはCCPのような強靭な組織ではありません。デフォルトを国全体でごまかすといった政策がとれるとは思えません。また、北朝鮮のような小さな国でもありません。このまま戦争が長引けば、プーチン政権が持ちこたえても、倒れるにしても、ロシア国内ではカオスが訪れるのではないかと思っています。
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