2023年5月2日火曜日

多分T-55は役に立たない

  兵器の進化は破壊力の進化が主流だと思われています。冷戦時代には核戦力が行きつくところまでいったあげく、それを使ったら自らも滅ぶというところまで行ってしまい、うかつに使用できなくなってしまいました。通常兵器も破壊力、命中率を増す方向に進化していて、第二次世界大戦中無敵であったティーガー戦車もM1エイブラムスと交戦したら瞬殺です。

  あまり注目はされていませんが、兵器の進化は南北戦争( 1861~1865)を境に別の方向性にも進化し始めたように思います。それまでは兵器にどれだけ兵士が順応できるかに戦闘力がかかっていましたが、雷管の発明以降はどれだけ兵士の負担を軽減できるかという方向に向っていると思われます。もちろん、これは物理学や化学の発展に密接に関連しています。南北戦争頃には、分子論、原子論は科学者の間では常識であり、 1869年にはメンデレーエフの周期律表が発表されています。これは原子量や電子価の概念に直結する概念であります。

 さらに近年では半導体素子の発展により、その方向の兵器の進化が加速しています。もちろん、新型兵器を扱うにはそれなりの訓練が必要ですが、兵器の操作やメンテナンスよりもその兵器を使ってどのように戦闘を行うのかの訓練に重点が置かれているように思います。

 現代の各国の特殊部隊は非常に優秀ですが、マスケット銃とブロードソードを支給されたら、多分まともに戦えないと思います。先込め式の非雷管式の銃は装填自体にかなりの習熟が必要ですからね。 

 

 
 ウクライナ紛争において、ロシアはせっぱつまって、T-62とかT-55を引っ張り出してきましたが、ちゃんとした戦力になるのかはかなり疑問です。西側戦車との能力差が大きいとかいう問題ではなく、運用自体まともにできるのか?と思います。
 
 まずは砲弾自体の問題があります。T-72以降のロシア戦車は51口径125mm滑空砲を使用しています。T-64の初期型とT-62は55口径115mm滑腔砲を使用、T-55/54は56口径100mmライフル砲を使用しています。ロシアの兵站に関しては開戦初期から問題がありまくりなので、これだけ違う砲弾をちゃんと補給できるとは思えません。それに、旧式戦車については、多分備蓄砲弾を使用すると思われるので、数十年前の備蓄砲弾がちゃんと使えるかという問題もあります。不発弾でも砲塔から発射できたらいい方で、砲塔内で詰まったら、いきなり戦車自体が危険物になります。
 変速機にもかなり問題があります。1,980年以降の自動車のマニュアルトランスミッションには同調装置と油圧による補助が付いています。それ以前の旧車を運転したことがある人は分かっていると思いますが、変速レバーが非常に重く、1発で変速できないこともしばしば起こります。ソ連製の戦車にこういう補助が付いたのはT-72以降になります。T-55に至っては変速レバーがあまりに重いのでハンマーでたたいて変速していたという話もあります。自動車と違って戦車の方向転換は左右の履帯の速度差で行います。まともに変速できなければカーブも曲がれないことになります。
 T-72の変速機は前進7段後退2段(もちろん左右別)のMTです。ロシア製の戦車がATになったのはT-80の後期型からで、日本の戦車もAT化は90式からなのでこんなもんですかね。ただ、アメリカの戦車はここら辺進んでいて1950年代のM47からAT化され、M48ではステアリングハンドル操作、M1では操縦桿による電気信号操作になっています。
 T-72でさえ運転できるようになるには、かなり手間がかかるでしょう。T-62、T-55に至っては、変速するのにもコツをつかむ必要があります。さらに、戦車は戦闘を行わなければなりません。戦闘機動を行うには相当の訓練が必要になると思います。また、乗員のチームワークがなければ、まともに戦えません。T-62以前の戦車は装填手が1名増えるので、意思疎通が難しくなります。
 
 旧共産圏では古い兵器をいつまでも保管しておくのが常道ですが、実は古い兵器の方が扱いが難しいので (動態保管ともなると、かなりのコストもかかります。)効果的な使い道がなければ出さない方が賢明だと思います。(アップグレードして出すのはありかも。)
 
 T-55でも数が揃えば脅威だという考え方もありますが、ちゃんとした訓練を受けていない兵士が乗った場合、かなりの率で自滅するのではないかと私は思っています。
 

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