もう、海外ではDVDを発売しているところもあるようです。
新海誠監督の作品は静的なシーンが多く今まで、肌に合わず中々最後まで見ることができませんでした。これは、あらすじをある程度知っていたのが良かったのか、テンポが今までの作品より良かったのか、最後まで見ることができました。三葉のビジュアルがOKだったからかも・・・・。
風景描写が非常に美しいです。ここは新海監督の持ち味だと思います。この監督は雨の描写が好きで、そのへんはうっとうしいと個人的には思っています。
今、世界中で大ヒットしています。興行収入がもののけ姫を超えたとからしいです。対抗馬が全然ないことも大きいと思います。ストーリーは普通です。最後に会うのが、成長した四葉だったり、イージス艦で隕石を打ち砕くとかいう超展開だったらポイントは上がったと思います。
この作品は、ファンタジーというよりSF的な作品です。時をかける少女とかと同類ですかね。となると、メインの設定にかなり致命的なミスが2つあります。もう既にネット上では指摘を受けています。こういうのがあるから、SF作品って作るの難しいんだよな。
1つめは、彗星の核を最接近点で砕いたことです。彗星は、遠日点のあたりはほとんど分かっていませんが、良く目立つので、尾が出だす火星軌道より内側のことは結構分かっています。
直観的に気が付くのは相対速度の問題です。地球付近で、地球との相対速度が最も遅くなるのは、同一公転方向で 、同一軌道面、近日点1天文単位の彗星です。
ここで木星あたりが遠日点の彗星を仮定します。 v=√μ((2/r)-(1/a))
r:太陽からの距離、a:平均距離、μ=882.1、木星:5.2AU
から、彗星の近日点速度が 38.5㎞/sになります。地球の公転速度は29.7km/s、その差8.8km/sです。
これは第2宇宙速度11.2km/s以下なので近日点に地球があれば彗星自体が、地球の重力圏に取り込まれてしまうことになりますが。これでもまだ0.9km/s 速度を落とし、7.9km/s未満にしないと地球には落ちてきません。
地球に破片を落とすのであれば、もっと手前で砕けるか、速度を殺すことができるくらいの大爆発が必要です。
彗星は尾がついているので途中で砕けたらすぐ観測に引っかかります。大きな破片が地球への落下コースに入ったら早めに警告が出されるでしょう。隕石(小惑星)が警告なしで落ちてくるのは、大気圏に入るまでほとんど見えないからです。
また、彗星は地球くらいの重力で壊れることはまずありませんが、太陽や木星などの巨大惑星の重力に負けてバラバラになることは時々あるようです。
それから、彗星の核の組成の問題もあります。彗星の核は揮発成分の割合が高いことが分かっています。ハレー彗星は80%が水でできていることが分かっています。こういう天体が大気圏に落ちたらまず間違いなく、大気圏に入ってすぐに、圧力や熱に負けて粉々になると思います。
映画のコースですと、単純計算で38.5km/s+0.5km/s(自転に逆らう方向なので)で大気圏に突っ込むことになります。泥水の氷塊にすぎない、彗星の破片なんて上層で木っ端みじんになると思います。
画像のように成層圏まで持ちこたえるとはとても思えません。
彗星が大気圏をかすめた可能性もありますが、揮発成分の多い彗星が大気圏をかすめたら、おそらく、それだけで太陽より明るくなり、凄まじい衝撃波が来ると思います。
彗星に隠れて見えなかった小惑星が落ちてきた事にしておいた方が良かったのではと思います。
2つめはクレーターの大きさがやたらと大きい事です。最初に見た時からちょっと大きすぎるのではと思っていました。上の画像の元の湖の倍の直径があるのです。
この湖の直径を推定します。高校から湖を見た景色は、諏訪湖がもとになっているそうです。諏訪湖は断層湖なので円形ではなく長方形をしており、もとになった景色の水平方向の差し渡しは対角線にあたるため5kmくらいです。
映画の湖はほぼ円形で、三葉の住む神社から高校まで湖を半周7.9kmあることになります。これはちょっと徒歩で通うには遠すぎます。
映像では、対岸の建物もよく見えるため湖の直径は、1.5kmから2kmの間、1.7kmくらいではと思います。これで湖の半周は2.7km、そこそこつじつまが合う長さかと思います。
諏訪湖の短辺はほぼ2km。上の描写は短辺方向の対岸の景色がもとなのでしょうか。
この前提でいくと、クレーターの直径は3.5kmになります。
上は有名なアリゾナのバリンジャー・クレーターです。地質調査等で次のことが分かっています。
直径約20 - 30mの鉄金属隕石、衝突速度11km/s。
衝突地点ではあらゆる物質が融解・気化し、高温高圧によって炭素からダイヤモンドが生成された。衝突はマグニチュード5.5以上の地震を引き起こし、クレーターの外側にあった30tの石灰岩の塊を突き動かした。
衝突地点から半径3kmから4km以内の生物は、衝突と同時に死滅した。その後、衝突によって発生した巨大な火の玉によって半径10km以内のあらゆる物質を焦がし、2,000km/hに及ぶ衝撃波が半径40km近くまで広がり、半径14kmから22kmまでのすべてを何もない荒野に変えたそうです。
このクレーターの直径は1.2kmしかありません。映画の中のクレーターがいかに大きなものかが分かると思います。元の湖が半分埋まるくらいのリムがあってもおかしくない大きさなのです。もちろん、対岸に逃げたくらいで命が助かるレベルではありません。少なく見積もってこれなのです。
元の湖が諏訪湖の大きさだとすると、クレーター直径は8km-10kmになります。このレベルになると成層圏近くまで土砂を噴き上げ、地球規模の気候変動を引き起こすことになります。
ちなみに、クレーター直径100kmクラスになると、種の大量絶滅が起こるほどの気候変動が起こります。
アニメでは、絵や動きの方を優先して、あえて、間違った描写をすることもあります。この作品は、異なった時間軸で繋がるという大ウソを生かすために、細かい部分でリアリティの高い描写をしているので、ちょっともったいないなと思いました。
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